タバコがまだまだ欠かせない中国


会社の会議室はいつもタバコ臭い。


中国人董事長はタバコを吸うし、
来客者が顔なじみの中国人であれば大抵打ち合わせ中にタバコを吸うからだ。
だからテーブルの真ん中にはいつも灰皿が置かれている。


中国は世界最大のタバコ生産国&消費国らしい。
米疾病予防管理センター(CDC)などによる2010年度の調査では、
中国の喫煙人口は約3億5000万人にのぼるといわれている。
中国人男性の57.4%が喫煙者、女性は3%弱というからずいぶん偏っている。
昔から中国ではタバコは重要なコミュニケーションツールの一つであり、
一人がタバコを吸う場合、側に居合わせた人達にも勧めるのがマナーだ。
1本貰って吸い終わると、今度は自分の分を相手に勧める・・のループは
現代でもなお習慣として根付いている。


とはいえタバコの健康害悪は言わずもがなだ。
厳密な因果関係は気になるところだけど、
喫煙関連の病気で毎年100万人以上が国内で死亡しているとの報告もある。
2030年までには年間350万人が死んでまうとか言われる中で、
さすがの中国といえども禁煙ムーブメントは避けがたい風潮になりつつある。
今年5月からは衛生省がホテルやレストラン、バー、映画館、ゲームセンター、
公園、展示場、ターミナルなど屋内の公共の場での喫煙を禁止した。
公共施設を運営する事業者は目立つように「禁煙」の看板を掲げ、
従業員は喫煙を控えるよう利用者に伝えなければならないとしている。


しかしながら
もちろん日本と同様にタバコ産業がそう簡単に廃れるはずもない。
中国でもタバコは国有企業(中国煙草総公司)の専売制であるわけだし、
年間およそ750億ドルとも言われる税収は捨てがたい。
前述の公共の場での禁煙通知にしたって、禁煙を守らなくても
特別罰金や罰則は規則では定められていないなど片手落ちな感が否めない。
また主要産地である雲南昆明、玉渓、楚雄、昭通、曲靖などの中東部では
約400万世帯がタバコ栽培で生計を立てている現状も見過ごせないのだ。
消費者側からみても、タバコは古くから「男性上位主義」や「民族主義」、
愛国主義」の象徴とされており、かつては毛沢東訒小平など国家指導者が
タバコをくゆらせ、権力やリーダーシップのイメージとも切り離せない。
現代でも成功者ほどこれみよがしに高価なタバコを吸うのが中国だったりするのだ。


先日酒の席で話したある中国人社長の言葉が印象深かった。
「中国人同士の約束は契約書なんて交わさない。信頼関係で成り立ってるから
言葉に出したらもう必ずしなくちゃダメなの。だから答えを出さなくちゃいけないとき
タバコをとって火をゆっくり点けて時間をかせいで、その間に考えるんだよ」
口約束の重みはなるほど中国独特の商習慣と関係するのかもしれない。
政治家の発言を見ても軽率さが目立つ日本と比べると、
中国政府の狡猾じみた交渉術はこうしたところで養われてきたようにも感じる。


ちなみに、
中国は1人当たりの年間消費量が1646本でアジアでも第3位なのだが
アジア1位は実は日本(1人当たり2028本)なのだ。
ヘビースモーカーが多い日本は、ストレスの捌け口にタバコを吸ってしまうゆえ、
だからこそ禁煙のハードルが高いのかなぁ、なんて感じたりもする。


物価と一緒にストレス度数も高まってきている上海で
会議室が禁煙になる日はまだまだ遠い。